「人間をやってきたかどうかが重要だ。懐かしさがある」 アラーキー
真実を穿った言葉は胸の奥に沈んで消えない。そして、なにかのはずみで浮かんでくる。表題の言葉は、アラーキーこと荒木経惟が、木村伊兵衛の作品集を見ての感想である。いま、重厚な「定本木村伊兵衛」 asin:4022586761、その言葉が蘇ってきた。
これは、NHK ETV特集「木村伊兵衛の13万コマ〜よみがえる昭和の記憶〜」(2006/3/18)http://www.nhk.or.jp/etv21c/backnum/index.html の中で最後に述べた感想だ。アラーキーのいい方には省略があって、番組を見ていない方には、意味が不明瞭かも知れない。
晩年の作品に、公園で遊んでいる女の子のスナップショットが数枚ある。なんの変哲もない写真である。でも、アラーキーは唸るように云う。「懐かしさがあるんだよね。人間を(しっかり)やってきた人でないと、この写真の良さは分からんでしょう。実にいい」。
もちろん、木村がシャッタで切り取った昭和が、数々の傑作として、そこに残っている。終戦後まもない有楽町駅の「母と子」は、胸が裂けそうになる。永遠の時を凝縮した「本郷森川町」は見れば見るほど不思議だ。昭和の日本はどこへ消えたのか。世界にもう残っていない。
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