世間胸算用、いまもむかしも - sei9nen9のブックケース

「大晦日は一日千金」と井原西鶴『世間胸算用』の副題にある。町人にとって金銭上の総決算日であった大晦日には、様々な掛け売りのつけを払ったり、また、売り掛け金を回収しなければならないから、さまざまな悲喜劇を起こる。西鶴は、『世間胸算用』で、その大晦日の一日に焦点を当てて、人の生き様を描いた。

現代の私たちも、この時期は、お金について考えることが多くなりますね。

『おりこうさん　おばかさんのお金の使い方』板倉雄一郎著は、お金が嫌いな人にも面白い本です。硬くなった頭をほぐすのに効き目がありますよ。板倉氏は、1991年、三つ目となる株式会社ハイバーネットを設立、ビジネス賞を総ナメにし、注目を浴びたことがあったが、1997年、負債総額37億円で破産した経験を持つ。

そんな経験から、“世の中のお金の仕組みは、一部の人々によってつくられ、経済的教養の低い人たちのお金が搾取されているということ”を悟る。それ以前は、｢金融機関は、経済合理性にのっとった行動をするもの｣との、何の根拠もないことを信じて会社経営していた。経済やファイナンスのプロたちは、経済音痴な人から経済価値を搾取することなど､赤子の首をひねるようなものだ、と思い知る。

本書では、日本の義務教育では教えてくれなかった｢経済とお金｣について、経済的教養の高い人たちに騙されないように、卑近なポイント集めから、住宅ローン、株式投資まで、おりこうさんの知恵を教えてくれます。

あなたは持ち家派？　賃貸派？
〔｢どうせ家賃を払うなら、ローンを組んでも家を持ちたい｣と、所有すること自体に喜びを感じる人〕
〔｢高い金利を負担してまで、『お金を生み出さないモノ』を所有したいとは思わない｣と考える人〕
前者はおばかさん。後者がおりこうさん。

投資信託
〔小額資金で投資できるし、分散投資の効果を信じて、投資信託を買う人〕
〔投資信託の実績を知っているから、絶対に買わない。自分で直接よい企業を見つけて集中投資する〕
どちらがおりこうさんかは自明でしょう。

板倉雄一郎事務所サイト：
http://www.yuichiro-itakura.com

ここで、江戸時代の暮れの様子を『世間胸算用』を通してのぞいておこう。

巻一　長刀はむかしの鞘
元朝に日蝕六十九年以前に有りて、又元禄五年みづのえ、さる程にこの曙めづらし。
暦は持統天皇四年に儀鳳暦より改りて、日月の触をこよみの証拠に、世の人これを疑ふ事なし。
口より見尽して末一段の大晦日になりて、浄瑠り小うたの声も出ず、けふ一日の暮せはしく、こと更小家がちなる所は、喧（嘩）と洗濯と壁下地つゞくると、何もかも一度に取りまぜて、春の用意とていかな事、餅ひとつ小鰯一疋もなし。
世に有る人と見くらべて、浅間敷哀れなり。

巻二　銀壱匁の講中
人の分限になる事、仕合せといふは言葉、まことは面々の智恵才覚を以てかせぎ出し、其家栄ゆる事ぞかし。
これ福の神のゑびす殿のまゝにもならぬ事也。大黒講をむすび、当地の手前よろしき者共集り、諸国の大名衆への御用銀の下士借入の内談を、酒宴遊興よりは増したる世の慰みとおもひ定めて、寄合座敷も色ちかき所をさつて、生玉、下寺町の客庵を借りて、毎月身体譣議にくれて、命の入日かたぶく老体ども、後世の事はわすれて、ただ利銀のかさなり、富貴になる事を楽しみける。

巻三　小判は寐姿の梦
「夢にも身過ぎの事をわするな」と、これ長者の言葉なり。思ふ事をかならずに見るに、うれしき事有り、悲しき時あり、さまざまの中に、銀拾ふ夢はさもしき所有り。
今の世に落とする人はなし。それぞれに命とおもふて、大事に懸る事ぞかし。いかないかな、万日廻向の果てたる場にも、天満祭りの明る日も、銭が壱文落ちてなし。
兎角我がはたらきならでは出る事なし。

巻四　長崎の餅柱
　霜晦日切に、唐人船残らず湊を出て行けば、長崎も次第に物さびしくなりぬ。
しかしこの所の家業は、よろづからもの商なひの時分銀もふけして、年中のたくはへ一度に仕舞置、貧福の人相応に緩々とくらし、万事こまかに胸筭用をせぬところなり。
大かたの買物は当座ばらひにして、物まへの取りやりもやかましき事なし。正月の近づくころも、酒常住のたのしみ、この津は身過ぎの心やすき所なり。

巻五　平太郎殿
　古人も「世帯仏法」と申されし事、今以てその通りなり。毎年節分の夜は、門徒寺に、定まつて平太郎殿の事讃談せらるゝなり。
聞たびに替はらぬ事ながら、殊勝なる義なれば、老若男女ともに参詣多し。一とせ、大晦日に節分ありて、掛乞、厄はらひ、天秤のひゞき、大豆うつ音、まことにくらがりに鬼つなぐとは今なるべし、おそろし。
さて道場には太鼓おとづれて、仏前に御あかしあげて、参りの同行を見合せけるに、初夜の鐘をつくまでに、やうやう参詣三人ならではなかりし。
亭坊つとめ過ぎて、しばらく世間の事どもをかんがへ、「されば今晩一年中のさだめなるゆへ、それぞれにいとまなく、参りの衆もないと見ゑました。
然れども子孫に世を渡し、隙の明たるお祖母たちは、けふとても何の用あるまじ。
仏のおむかひ船が来たらば、それにのるまいといふ事はいはれまじ。おろかなる人ごゝろ、ふびんやな、あさましやな。さりながら、ただ三人にきかせまして、さんだんするも益なし。
いかに仏の事にても、ここが胸筭用で御座る。中々灯明の油銭も御座らねば、せつかく口をたゝいても世の耗なり。
面々に散銭取返して、下向して給はれ。皆世わたりの事共にからまされ、参詣もなき所に、各きどく千万、ここを以て信心、女来もいそがしき中に足をはこび給ふを、そんにはせさせ給はぬなり。
金の大帳に付けおかせられて、未来にて急度筭用し給ふなれば、かならずかならず捨てたるとおぼしめすな。
仏は慈悲第一、すこしもいつはりは御座らぬ、たのもしうおぼしめせ」。

（浮世草子。五巻五冊。井原西鶴作。元禄五年（1692）刊。二十の短編から成る。副題「大晦日は一日千金」。）

世間胸算用参照サイト：
http://www.nul.nagoya-u.ac.jp/event/tenji/2002/tokusyu/seken/seken.html

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