『英語教師 夏目漱石』川島幸希著

巷間、漱石は大して英語ができなかったとの風説がある。英国留学時期の神経衰弱の話しとあいまって、まことしやかな印象を与えてしまう。そうでなくとも、じっさい、漱石の英語の実力はどんものだったのか、という好奇心は大いにある。

この本は、小説家になる前の英語教師としての漱石の姿が、具体的に検証されている。漱石の英語の力は抜群で、明治の時代に、国費留学生になっただけのことはある。一瞬でも、かの風説を受け入れた小さな自分を恥ずかしく思う。

漱石が英語教師として、実際にどういう英語の授業をしていたのか、あわせて、古くて新しい日本の英語教育の問題も論じられている。さらに、漱石の英語教育論は、時代を超えて、グローバル化した時代に生きる平成の人びとにも貴重な示唆を与えてくれる。

漱石自身は、終生、自分の音声面での英語能力にあまり自信をもっていかったというが、当時はもちろんのこと現在のレベルで考えても、外国人として十分賞賛に値する英会話力を有していたという。

漱石がロンドン留学のため乗船したドイツ船籍プロイセンの一等室で熊本在住時代の知人ノット夫人とよく談笑していたし、外国人宣教師を宗教に関する議論で論破している実績もある。欧米人の間では、宗教（神学）に関する話題は知識人の必須教養で、漱石が宗教問題で欧米人と議論できるのはたいへな実力である。

本書では、漱石が英語嫌いであった少年期から、英語教師としての夏目金之介を、松山、熊本時代を経て、帝大・一高時期へと追ってゆく。その間、漱石の英語教育論も展開される。若い時の漱石の英作文の原稿もみることが出来てほほえましい。ちなみに、著者は英語教育に携わっているプロなので、資料の使い方が的確である。

ところで、漱石は英語を教えるのを嬉々として務めていたわけではないようです。次に掲載した『入社の辞』は、東京帝国大学の英語教師を辞めて、朝日新聞社に入社した経緯をまとめた小文で、そこには、漱石の文豪としての顔ではなく、一市井人としての姿が如実に表現されている。

その文中に、“食ってさえ行かれれば何を苦しんでザットのイットのを振り廻す必要があろう。”の一行がある。余計なことながら、ザットはthat 、イットは it。　漱石が英語教師の職業に虚しさを覚えていたことが、ひしひしと伝わってくる。

『入社の辞』　夏目漱石
（典拠：青空文庫・図書カードNo.2676）
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大学を辞して朝日新聞に這入ったら逢う人が皆驚いた顔をして居る。中には何故だと聞くものがある。大決断だと褒めるものがある。大学をやめて新聞屋になる事が左程に不思議な現象とは思わなかった。余が新聞屋として成功するかせぬかは固より疑問である。

成功せぬ事を予期して十余年の径路を一朝に転じたのを無謀だと云って驚くなら尤である。かく申す本人すら其の点に就ては驚いて居る。然しながら大学の様な栄誉ある位置を抛って、新聞屋になったから驚くと云うならば、やめて貰いたい。

大学は名誉ある学者の巣を喰っている所かも知れない。尊敬に価する教授や博士が穴籠りをしている所かも知れない。二三十年辛抱すれば勅任官になれる所かも知れない。其他色々便宜のある所かも知れない。成程そう考えて見ると結構な所である。

赤門を潜り込んで、講座へ這い上ろうとする候補者は一一勘定して見ないから、幾人あるか分らないが、一々聞いて歩いたら余程ひまを潰す位に多いだろう。大学の結構な事は夫でも分る。

余も至極御同意である。然し御同意と云うのは大学が結構な所であると云う事に御同意を表したのみで、新聞屋が不結構な職業であると云う事に賛成の意を表したんだと早合点をしてはいけない。

新聞屋が商売ならば、大学屋も商売である。商売でなければ、教授や博士になりたがる必要はなかろう。月俸を上げてもらう必要はなかろう。勅任官になる必要はなかろう。新聞が商売である如く大学も商売である。新聞が下卑た商売であれば大学も下卑た商売である。只個人として営業しているのと、オ御上で御営業になるのとの差丈けである。

大学では四年間講義をした。特別の恩命を以て洋行を仰つけられた二年の倍を義務年限とすると此四月で丁度年期はあける訳になる。年期はあけても食えなければ、いつ迄も噛り付き、獅噛みつき、死んでも離れない積でもあった。

所へ突然朝日新聞から入社せぬかと云う相談を受けた。担任の仕事はと聞くと只文芸に関する作物を適宜の量に適宜の時に供給すればよいとの事である。文芸上の述作を生命とする余にとって是程難有い事はない、是程心持ちのよい待遇はない、是程名誉な職業はない、成功するか、しないか杯と考えて居られるものじゃない。博士や教授や勅任官杯の事を念頭にかけて、うんうん、きゅうきゅう云っていられるものじゃない。

大学で講義をするときは、いつでも犬が吠えて不愉快であった。余の講義のまずかったのも半分は此犬の為めである。学力が足らないからだ杯とは決して思わない。学生には御気の毒であるが、全く犬の所為だから、不平は其方へ持って行って頂きたい。

大学で一番心持ちの善かったのは図書館の閲覧室で新着の雑誌杯を見る時であった。然し多忙で思う様に之を利用する事が出来なかったのは残念至極である。しかも余が閲覧室へ這入ると隣室に居る館員が、無暗に大きな声で話をする、笑う、ふざける。清興を妨げる事は莫大であった。

ある時余は坪井学長に書面を奉て、恐れながら御成敗を願った。学長は取り合われなかった。余の講義のまずかったのは半分は是が為めである。学生には御気の毒だが、図書館と学長がわるいのだから、不平があるなら其方へ持って行って貰いたい。余の学力が足らんのだと思われて甚だ迷惑である。

新聞の方では社へ出る必要はないと云う。毎日書斎で用事をすれば夫で済むのである。余の居宅の近所にも犬は大分居る、図書館員の様に騒ぐものも出て来るに相違ない。然しそれは朝日新聞とは何等の関係もない事だ。いくら不愉快でも、妨害になっても、新聞に対しては面白く仕事が出来る。雇人が雇主に対して面白く仕事が出来れば、是が真正の結構と云うものである。

大学では講師として年俸八百円を頂戴していた。子供が多くて、家賃が高くて八百円では到底暮せない。仕方がないから他に二三軒の学校を馳あるいて、漸く其日を送って居た。いかな漱石もこう奔命につかれては神経衰弱になる。

其上多少の述作はやらなければならない。酔興に述作をするからだと云うなら云わせて置くが、近来の漱石は何か書かないと生きている気がしないのである。夫丈けではない。教える為め、又は修養の為め書物も読まなければ世間へ対して面目がない。漱石は以上の事情によって神経衰弱に陥ったのである。

新聞社の方では教師としてかせぐ事を禁じられた。其代り米塩の資に窮せぬ位の給料をくれる。食ってさえ行かれれば何を苦しんでザットのイットのを振り廻す必要があろう。やめるとなと云ってもやめて仕舞う。休めた翌日から急に脊中が軽くなって、肺臓に未曾有の多量な空気が這入って来た。

学校をやめてから、京都へ遊びに行った。其地で故旧と会して、野に山に寺に社に、いずれも教場よりは愉快であった。鶯は身を逆まにして初音を張る。余は心を空にして四年来の塵を肺の奥から吐き出した。是も新聞屋になった尾か御蔭である。人生意気に感ずとか何とか云う。変り物の余を変り物に適する様な境遇に置いてくれた朝日新聞の為めに、変り物として出来得る限りを尽すは余の嬉しき義務である。
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青空文庫トップページ：
http://www.aozora.gr.jp/index.html

東北大学付属図書館　夏目漱石ライブラリ：
http://www.library.tohoku.ac.jp/collect/soseki/

一行コメント：教師という仕事に取り組む漱石の姿をみよ

英語教師 夏目漱石 (新潮選書)

一行コメント：著者の漱石好きが行間からにじみでる

書き写したい言葉 漱石の巻

心に花を：ツゲ
http://www.flowercity.jp/flower_contents_sub1/contents_detail.htm?idx=11&menu=birth

後で見るサイト：
・防衛庁が防衛省へ昇格、安倍首相"大きな第一歩"
http://ck.rd.livedoor.com/ck/d07010914/0109/
・下には何もつけず・・・釈由美子セミヌード"ちょっと勝負してみました"
http://ck.rd.livedoor.com/ck/d07010903/0109/

世界のどかでなにかが：
http://www.otoa.com/home/news_ditail.php?serial=11595

明日の六曜（11日）・行事：先負。鏡開き。蔵開き。熱田神宮（名古屋）踏歌神事。　
　

明日の日の出（東京）：06:51　
明日の日の入り　　 ：16:47
（国立天文台天文情報センター）
http://www.nao.ac.jp/koyomi/

今夜の一杯：カルーア・コヒー（アメリカ産リキュール）
http://www.alak.jp/shop/detail/n011.html

まだ、英語の勉強を続けている方へ：Sentenced
http://www.the-jokes.com/jviewer.php?clavech=978&cat=abog&cla=tcla&sort=fecha&id=Search&row=0&chquery=1070+1012+978+924+881+855+650+601+569+559+500+423+408+368+352+350+347+259+234+230+224+81+82+83+84+85+86+87+88

タータンチェックの美：Zavier, St Francis
http://www.tartans.scotland.net/tartan_info.cfm?tartan_id=6002

＊世界大トンボの眼＊世界大トンボの眼＊世界大トンボの眼＊

BBC NEWS International version HEADLINE:
Baghdad fighting 'kills dozens'
US and Iraqi troops have killed at least 50 militants during a battle in a Sunni stronghold of Baghdad, the Iraqi defence ministry says.
http://news.bbc.co.uk/2/hi/middle_east/6243945.stm

Al Jazeera English HEADLINE:
UN raises Somalia bombing concerns
The United Nations secretary-general has expressed concern that US air strikes in southern Somalia could increase hostilities and harm civilians.
http://english.aljazeera.net/NR/exeres/031BB5E1-1344-4445-A11B-9E569F302856.htm

中国CHINA.ORG.CN International HEADLINE:
US Strikes at Al-Qaida in Somali, Kills 20
The United States launched a fresh air strike on Tuesday in southern Somalia, close to the place where the US military struck against targets suspected of al-Qaeda operations and killed more than 20 people a day earlier.
http://china.org.cn/english/international/195522.htm

朝鮮日報The　Chosun　Ilbo　HEADLINE:
Roh’s Presidential Term Plan Divides Lawmakers
President Roh Moo-hyun said Tuesday he will invoke his right to propose a constitutional revision to change a president’s current single five-year term to a four-year term, renewable once.
http://english.chosun.com/w21data/html/news/200701/200701100018.html

THE AUSTRALIAN Headline:
Bush rings Howard on Iraq
US President George W. Bush called Prime Minister John Howard this morning to brief him on his plans for Iraq, one day before unveiling his new war-fighting strategy.
http://www.theaustralian.news.com.au/story/0,20867,21037659-601,00.html

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川風に一月場所の太鼓かな
島田五空